スティーブン・ソダーバーグ
娯楽性と芸術性を兼ね備えた作品をつくり続ける実力派監督
監督作「オーシャンズ12」(2004)が28日(火)に衛星第2で放送。
どんなにシリアスなテーマを扱っても、観客を楽しませるエンターテインメント性を外さない作品づくりで、ハリウッドの第一線で活躍するソダーバーグ。「セックスと嘘とビデオテープ」('89)でカンヌ国際映画祭パルムドールとサンダンス映画祭観客賞を受賞したデビュー当時は、“インディペンデント映画の俊英”として注目されていた。だがその後製作した作品は批評家の評価を得るも、どれも商業的には大失敗。卓越したセンスを持ちながらも、複雑で説明的映像を用いない彼の作風は、なかなか観客に受け入れられなかった。だが、監督7作目「アウト・オブ・サイト」('98)を初めて一本の娯楽作品としてまとめあげることに成功した彼は、ジュリア・ロバーツを主演に迎え、史上最大級の集団訴訟に勝利した女性の活躍を描いた「エリン・ブロコビッチ」(2000)でようやく商業的成功を収める。本作では、ときにドキュメント風な映像を織り交ぜつつ、リアルで厚みを持った人物描写でロバーツの個性を生かした魅力的なヒロイン像を作り出し、社会派作品にありがちな重苦しい雰囲気とは無縁な一級のエンターテインメント作品に仕上げた。
続く「トラフィック」(2000)では、“麻薬汚染”をテーマにした群像劇に挑戦。メキシコ、サンディエゴ、オハイオという3つの場所で繰り広げられるストーリーを同時進行させながら、緻密な構成によって登場人物たちを巧みに結び付け、麻薬コネクションと取り締まる側の攻防をリアルに描いた。また、3つのストーリーを三色別々の色調で描き分けることで複雑な物語を観客に分かりやすく見せるとともに、娯楽味を持たせた演出でエンターテインメントとしても確立させた。
2000年に公開されたこの2作品は、ともにアカデミー賞監督賞にノミネート。後者で初のオスカーを獲得した彼は、一気にメジャー監督へ登り詰めた。“同じような作品ばかり作っていたら枠にはめられたみたいでつまらない”という彼は、その後も娯楽的な内容に徹して作った“オーシャンズ”シリーズをヒットさせる一方で、ロシアの巨匠アンドレイ・タルコフスキーが手掛けた異色SF映画「惑星ソラリス」('72)をリメークした「ソラリス」(2002)や、「カサブランカ」('42)「第3の男」('49)など'40年代のフィルム・ノワールへのオマージュとして、全編モノクロ・フィルムの映像にこだわった「さらば、ベルリン」(2006)など実験的作品への挑戦も続けている。ことし公開された、キューバの英雄・チェ・ゲバラの半生を描いた2部作「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳別れの手紙」(2008)では、2作のスクリーンサイズや撮影方法を変えるといった技法的冒険に挑戦し、同じ人物を描きながらも、毛色の違う作品を生み出した。
新作としては、マット・デーモン主演で、'90年代に実際に起こった農産物加工業社の価格操作事件を描く「The Informant(原題)」がことし10月9日全米公開。そのほか、ブラッド・ピット主演の野球映画、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ主演のミュージカル映画なども準備中。作る映画の種類もどんどんバラエティーに富んできているのも面白い。これからもハリウッドの常識を覆しつつ、さまざまな作品で私たちを楽しませてくれるだろう。
PROFILE
'63年1月4日、アメリカ・アトランタ生まれ。父親がルイジアナ大学の学部長というインテリ一家に育つ。13歳から映画を撮り始め、高校卒業後ロサンゼルスにわたり、映像編集の仕事に就く。その後故郷に戻り、ドキュメンタリーなどを製作。'86年にはロック・グループ、イエスのライブ映画「イエス 9012ライブ」でグラミー賞を受賞する。ほか代表作は「KAFKA 迷宮の悪夢」('91)「スキゾポリス」('96)「イギリスから来た男」('99)「フル・フロンタル」(2002)など。ピーター・アンドリュース名義で撮影監督もこなしている。