西川美和
人間の心の裏を鋭く映し出す若き“本格派”
監督作「ゆれる」(2006)が17日(木)に衛星第2で放送。
長編監督2作目ながら、本作で国内の映画賞を総なめにし、海外でも高い評価を集めた西川。オリジナル脚本にこだわり続け、深い心理描写と物語の力で秀逸な人間ドラマを生み出している。女性監督の台頭が著しい昨今、その旗手ともいうべき実力派だ。
そんな彼女の才気は、鋭い人間洞察に見受けられる。物事を多面的な視点から観察し、善と悪、ウソと本当、そんなものでは一概に割り切れない“玉虫色”な人間の感情をえぐり出す。放蕩息子の帰還を機に一組の家族が崩壊していく情景を描いたデビュー作「蛇イチゴ」(2002)は、ウソの心地よさや真実ゆえの心苦しさといった複雑な感情に陥る登場人物たちをシニカルな目線で見つめ、最後に善と悪の逆転劇を描いた。
「ゆれる」は、兄弟の愛憎を痛々しいまでに描ききった力作だ。幼なじみの女性の死をきっかけに、“いい人”の仮面を破ってそれまで見せなかった一面を明らかにしていく兄と、そんな兄に対して疑惑を広げていく弟。対照的な両者の心の“ゆれ”をきめ細かく描写し、善と悪とを併せ持つ人間のドロドロとした闇を暴いた。
そして、先ごろ公開された新作が、“ニセモノとは何か”をテーマに選んだ「ディア・ドクター」(2009)だ。免許を持たないニセ医者でありながら、村人から神のように慕われている男を主人公に据えた本作。彼がついた善意の“ウソ”を通して、見捨てられる辺境の地では何が正義で何が悪なのか、という深遠なテーマを投げかける。僻地医療や高齢者医療の問題を浮き彫りにするとともに、弱さ、優しさ、善意、ずるさが同居する人間の不可解な心理を描いてみせた。
作品ごとに評価を高め、独特の世界観に引かれた熱狂的なファンを持つ西川は、今最も新作が期待される監督のひとりである。これからも彼女ならではの視点で、さまざまな人間の“業”を描いていってほしい。
PROFILE
'74年7月8日、広島県広島市生まれ。学生時代から映画製作を志し、映画製作会社などの就職試験を受けるがことごとく不採用となる。そんな中、テレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」の面接官だった是枝裕和監督に意気込みを買われ、同監督の「ワンダフルライフ」('98)にフリーのスタッフとして参加したことをきっかけに映画界へ。乃南アサの短編小説を映画化した「女神のかかと」を寄せた「female」(2005)や、夏目漱石原作の「ユメ十夜」(2006)といったオムニバス作品では、原作モノの脚色・監督も務めた。また、自ら執筆した「ディア・ドクター」の原案小説「きのうの神さま」が第141回直木賞の候補作品に選ばれるなど、作家としても活躍する。