矢口史靖

娯楽性豊かな作品で万人を楽しませるヒット・メーカー
監督作「ハッピーフライト」(2008)が30日(土)にフジ系で放送。常に意外性あふれる題材を見つけ、ユーモアのセンスが光る良質なエンターテインメント作品を作り続ける矢口監督。幼いころから娯楽映画を好んで見て育ったという彼は、大学在学中に自主制作した8ミリ長編「雨女」('90)でアマチュア監督の登竜門であるぴあフィルムフェスティバルのグランプリを受賞し、「裸足のピクニック」('92)で劇場監督デビューを果たす。ごく普通の女子高生がふとしたことから不幸のどん底に落ちていく様を描いた本作は、ブラック・ユーモアに満ちたストーリー展開で、現在の彼の作風とはかけ離れていたものだった。
その後の作品も、三度の飯よりお金が大好きな娘が巻き起こす大騒動を描いた「ひみつの花園」('97)、やくざの大金を持ち逃げした男女が逃避行に突っ走る「アドレナリンドライブ」('99)といった、奇想天外なストーリーや絶妙なユーモアが持ち味のドタバタコメディーが続く。そんな中、大きな転機となったのが、大衆向けの娯楽作をつくってきた製作プロダクション・アルタミラピクチャーズとの出会いだった。同社のプロデュースで、“男子シンクロナイズドスイミング部”というユニークな題材を映画化した「ウォーターボーイズ」(2001)が大ヒットを記録。シンクロに打ち込む男子高校生たちの奮闘を独特の笑いを散りばめて描くとともに、さわやかな感動を誘う極上のエンターテインメントにまとめ上げ、多くの観客の心をつかんだ。続く「スウィングガールズ」(2004)でも、“東北弁の女子高生”と“ジャズ”というミスマッチな組み合わせからのどかな笑いを生み出し、独特の切り口のおもしろさがうかがえる。本作は前作を上回るヒットを記録し、日本アカデミー賞で最優秀脚本賞など5部門を受賞した。
こうして娯楽映画監督としての地位を確立した矢口監督が、前2作と打って変わって“働く人々”を主人公にした「ハッピーフライト」は、もうひとつのターニングポイント的作品といえる。「ハッピー~」は航空業界を舞台に初めて挑戦した“グランドホテル形式”の群像劇であり、パイロットやCAはもちろん、整備士や管制官、空港上空の鳥を追い払う“バードパトロール”など、航空機の運行に携わるさまざまなプロフェッショナルたちにスポットを当てた“お仕事ムービー”だ。緻密な取材によって彼らのリアルな言動を活写するとともに、人間味のあるユーモアに満ちた展開で万人が楽しめるエンターテインメントにつくり上げた。取材に時間をかけるため寡作と言われるが、1作ごとに“知らない世界の裏側”を見せてきた矢口監督。次回作ではどんな“矢口ワールド”を見せてくれるのか、楽しみにしたい。

PROFILE
'67年5月30日、神奈川県生まれ。東京造形大学に入学後、1年先輩の鈴木卓爾に影響を受けて、8ミリによる自主映画の制作を始める。鈴木と共同で、カメラを一点に固定し、1カットだけで作品を完結させることに挑んだ短編集「ONE PIECE 春コレクション」「ONE PIECE 秋コレクション」('94~'98)を制作。そのほか、ショッピング・ビルの渋谷パルコをモチーフにしたオムニバス・コメディー「パルコ フィクション」(2002)も彼と共に制作。「歌謡曲だよ、人生は」(2007)では12人の監督と昭和歌謡曲をテーマに短編を撮った。

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